あすかパンの作品掲載ブログ

主にあすかパンが作成したイラストや漫画等を展示しています。

2016年11月

4-220

2016.11.30

4-219

2016.11.29

inutu

2016.11.15

hutomayu

このバッヂを付けると、不思議な召使が現れるんだ。
 そんな幻想小説みたいなことをお客さんは言って、ボクの手にひとつのバッヂを握らせた。僕が呆然としていると、そのお客さんは風のような素早さで去っていった。あの焦り様を見ると、きっと財布を落としたか忘れたかしたんだろう。しばらく追いかけて行ったが今日は生憎の霧模様で、お客さんはすぐに見失ってしまった。慈善事業じゃないんだぞと、僕は地団太を踏む。日はとっぷりと暮れて空は真っ暗。橋の上の人々は既に店じまいを済ませ、人通りはまばらだった。夜に外を出歩いていると、人さらいに連れていかれるぞと母さんはよく言っていた。そのことを思い出し、僕の背筋はぶるりと震える。
 羽振りの良さそうな恰幅の良いおじさんだからと、いつもより丁寧に靴を磨いたのが馬鹿みたいだ。握らされたバッヂを見て、僕はため息をつく。なんだか偉そうな紋章が描かれた少し大きめのバッヂだ。僕がおしゃれをしようと思っても、これを身に着けることはないだろう。質屋に持って行っても大した値段で売れそうにない。
 僕の磨いたその靴で逃げられたのは癪だけど、もはや探す気にはなれなかった。せめてもの慰めに僕は胸に貰ったバッヂを付けて帰る準備をしようと踵を返す。そういえば、商売道具も路地に広げっぱなしだった。雀の涙な売り上げは常に肌身離さず持ち歩いているにしても、道具をかっさらわれるのは酷い痛手だ。今日はとんだ厄日だったなと、僕はもう一度ため息をつく。
「こんばんは、ご主人様」
 僕はぎょっとして振り返った。頭のおかしい輩に絡まれたのかと思ったのだ。そこに居たのは、紳士のような装いをした見たことも無いようなド派手な髪色の男だった。おまけに、男なのに緑の口紅をさしている。
「何なりと、お申し付けを」 
 しかし、悪意を持って僕に接している訳では無さそうだ。僕は仕事柄、人を見る目はそこそこ鍛えられているつもりだ。こんな、絶対に一緒に街を歩きたくないような姿をしている男相手でも、それはわかった。
 このバッヂは本物の召使召喚バッヂなんだろうか? そんなことを考えていた僕に向かって、奇妙な召使はもう一度声をかけた。
「ご主人様」
 命令を急かされている気がして、ひたすら疲れた頭で考える。急に言われても、頼みたい事なんて……。
「そうだ」
 そうそう、ひとつあった。僕が今現在困っている事。
「僕を無事に家まで帰してよ。あ、靴磨きの道具をちゃんと回収してからね」
 ちょっとふんぞり返って命令する。だって、人に命令する機会なんて滅多にないんだ。
 召使は笑顔で、了解しました。と返事した。

2016.11.05 

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